本研究は、東アジアにおける狩猟法の発展を、大規模な投射実験の成果に基づいて明らかにすることを目指す。平成22年度は、投射実験準備を進め、日本列島で後期旧石器時代初頭に出現する台形様石器レプリカの投射実験、台形様石器考古資料の分析をおこなった。 実験に当たっては、刺突、手投げ、投槍器を使っての遠隔射撃、弓矢の使用、の各狩猟法で生じる投射速度を復元するため、Praehistorlc Archery社に製作を依頼した改良ボウガンをドイツより手配した。本年度の投射実験により、台形様石器という形態の石器において、狩猟法と衝撃剥離痕の規模、形状、頻度との間に、強い相関があることが明白となった。台形様石器は、刺突のスピード(エネルギー)では、皮を破っても肉を貫通して骨に達することはなく、それゆえ石器に衝撃剥離が生じることはない。これが手投げになると、多くの試料が骨にまで達し、微小な衝撃剥離が生じる。さらに投槍器の速度となると、台形様石器が確実に骨を貫通し、指標的な衝撃剥離が高頻度で発生するようになる。弓の速度に至っては、レプリカが複数片に割れるような大規模な破損が生じてしまうことがわかった。この実験結果と考古資料の分析結果を比較検討すると、後期旧石器時代初頭に登場する台形様石器は、弓を用いたことが明白な中石器時代の台形石器とは異なり、少なくとも弓は用いられていないことが明らかとなった。この結果は、相似した形態の石器であっても、時期によってその狩猟法が違っていたことを明らかにした点で重要である。 平成23年度以降、ナイフ形石器、尖頭器、細石刃レプリカといった別形態の石器を用いた投射実験を遂行し、さらに同器種の考古資料を分析することで、東アジアにおける狩猟法発展のプロセスが解明される。
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