本研究は、東アジアにおける狩猟法の発展を、大規模な投射実験の成果に基づいて明らかにすることを目指すものである。平成23年度は、昨年度に引き続き投射実験を進め、そのデータ解析、考古資料の分析をおこなった。 実験の結果、各狩猟法と衝撃剥離および微細衝撃線状痕の発生頻度の間に明瞭な相関が認められた。また、衝撃剥離の規模も狩猟法と相関を示し、投槍器や弓矢の速度では衝撃剥離の長さが10mmを超える確率が高くなることが明らかとなった。また、槍先レプリカの残存率も狩猟法と相関関係にあり、特に弓矢の速度では試料の断片化が進み、試料の残存率が低くなることが明らかとなった。ただし、それらの程度は、槍先形態に依存することも、本プロジェクトの投射実験で明瞭となった。例えば、台形様石器やナイフ形石器と呼ばれる槍先形態のレプリカ試料では、衝撃剥離の発生頻度、衝撃剥離規模、残存率が著しく異なり、したがって考古資料を解析する際は、該当する槍先形態の実験結果に基づいて評価することが不可欠であることも明らかとなった。また、東アジア出土考古資料の分析をおこない、本実験で見いだされた衝撃剥離と同様の痕跡を確認した。 本プロジェクトで遂行された実験により、狩猟法を復元するために分析すべき重要な属性が明らかとなった。これにより、本実験手法が先史時代の狩猟法を復元する有効な手段となることを確認できた。また、今後より多様な形態の槍先レプリカの投射実験を遂行した場合、東アジア出土考古資料に見出された衝撃剥離が、いかなる狩猟法のもとで形成された痕跡であるのかを解明することができる見通しが立った。 本プロジェクトの成果は、ドイツ・マインツ大学で開催した先史時代狩猟具に関する国際シンポジウムで発表した。
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