本研究は、初期仏教から部派仏教の過程で成阿羅漢/成仏の伝承がどのように展開し、そして、その変化がどのように大乗仏教へ影響したのかを明らかにした。 仏教の部派において、修行論を示す論書(Saundaranandaなど)は修行者が阿羅漢に成る直前に四諦を観察することを示すのに対し、仏伝(Buddhacaritaなど)は菩薩が仏陀に成る前に縁起を観察すると説く。この傾向は遅くとも二世紀に少なくとも北インドに存在し、遅くとも五世紀初頭にはスリランカに達した。そして、南アジアの多くの地域に広まり、少なくとも七世紀まで継続した。 三乗説にかんして、『法華経』などの大乗仏典は、四諦の認識を声聞の認識として位置づけ、縁起の認識を独(縁)覚の認識として位置づける。この新たな傾向は三世紀頃に始まったから、おそらく大乗仏典は修行論を示す論書と仏伝の傾向を批判していたと考えられる。
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