本研究は、多宗教・多民族国家として知られるオスマン帝国において、いつ、どのようにして近代ジャーナリズムが誕生したのか、またそれが帝国の公共的空間の形成にいかなる影響を与えたのか、ということを明らかにすることを目標とする。とくに、オスマン帝国の言論空間の多元性を捉えるべく、一方では「オスマン・ジャーナリズム」という新たな分析枠組みを提示することで理論面での研究水準の引き上げをはかり、他方ではアラビア文字表記のオスマン・トルコ語で発行された初の民間新聞『時事通信』(ジェリーデイ・ハヴァーディス、1840-1864年、全1212号)の調査・分析を通して実証性の確保をめざす。 当該年度の研究成果として、平成23年5月に日本中東学会、7月に北海道大学スラブ研究センター、11月に史学会、平成24年3月に比較教育社会史研究会にて、オスマン・トルコ語定期刊行物史料の分析に基づく口頭発表をおこなった。平成23年7月にはトルコ共和国に出張し、イスタンブルのアタテュルク文庫、ベヤズト国立図書館、トルコ宗教財団イスラーム研究センター図書館で史料の調査・収集をおこなった。 以上の活動により、オスマン・トルコ語定期刊行物をはじめとする一次史料の調査・収集・分析を進めることができた。また、中東研究のみならず、帝国論や教育史に関連するディシプリン横断型の研究会で本研究の意義と成果の一端を発信することにより、他地域・他分野の研究者からいずれも建設的な意見や情報を得ることができた。なお、北海道大学スラブ研究センターでの口頭発表に用いたレジュメは、同センターのウェブサイトおよび同センター刊行の成果報告集に収載された。また、財団法人東洋文庫のウェブサイトで公開されている「オスマン帝国史料解題」のなかで、「新聞(1870年代まで)」と「雑誌(青年トルコ革命以前)」の項を作成し、本研究で得られた成果の一部を広く発信した。
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