昨年度は、皇帝や都市の名望家たちの財政的貢献が、各地方都市の碑文において、どのような「徳」を示す言葉によって表現されているのかを調査した。今年度は、昨年度に行った北イタリアの碑文についての調査をもとに考察を行った。そのためにイタリアへ行き、碑文に関する文献史料の収集を行い、また碑文の専門家と意見交換を行った。 調査の結果、北イタリアでは、財政的支援について称賛する際に、特にliberalitasという語が用いられていたことを明らかにした。liberalitasは、共和政末期には賄賂などの政治的な意味をも持つようになり、必ずしも肯定的な意味でのみ使われたわけではなかったという。したがって北部以外のイタリアでは、munificentiaという言葉が好まれた。北イタリアは共和政末期の政治家ユリウス・カエサルの政治的な地盤であり、様々な点でカエサルからの支援を受けていたと考えられる。その記憶がある北イタリアでは、カエサルと結びつけられる語であるliberolitosが、帝政期にも好まれたと結論づけた。このことを論文「ガリア・キサルピナとカエサル―碑文に見られるliberalitasを通して―」としてまとめ、発表した。このカエサルとの結びつきに基づく考察は、イタリアの碑文学者にも独創的であると評価された。 さらに北イタリアの人々が、ローマ皇帝の支配をどのようにとらえていたのか、その精神性について調査するため、宗教に関する碑文の調査を行った。
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