平成22年度は、当初の研究計画に従い、1.法制の整備や公的な言語機関、各ワロン語擁護団体の活動の現状、および2.19世紀後半に存在したワロン語の運動の伝統が現在の運動に及ぼしている影響について研究を行った。 前者については、ベルギー国家における言語政策の分析を通して、公用語のみを対象とする地域別一言語主義に基づく政策が、それ以外のことばを排除する傾向にある点において、ワロン語の復権には負の作用を及ぼしていることを明らかにした。これらの成果の一部は、平成22年6月の日本言語政策学会(於関西大学)および同年12月の多言語社会研究会研究大会(於京都大学)での口頭発表、また平成23年2月に刊行された『ベルギーの言語政策:方言と公用語』(大阪大学出版会)の一部として公表した。 後者については、平成23年2月末から3月はじめにかけてベルギーに赴き現地調査を行った。ワロン語の復権運動を積極的に展開している運動家への聞き取りを実施し、およびワロン語のアカデミーとしての性格をもっワロン語・文学協会の刊行する雑誌資料を収集した(平成22年度と23年度の計画を入れ替え、当初予定していた『ワロン文学協会年報』と『ワロニー語・文学協会会報』でなく、同協会刊行の雑誌『ワロンヌ』を本年度の対象とした)。以上のデータ・資料は現在、整理、分析の途上にあるが、同じくワロン語の保護を明言する団体間においても、望むべきワロン語の将来像。とりわけ標準語の制定について、見解の齟齬が存在すること、またその要因が明らかになると予想される。これらの成果は本年平成23年度内に公表する。
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