平成23年度は、昨年度の調査を踏まえ、「内発的地域語評議会」、「ワロン語・文学協会」、「ワロン文化協会」、「大小様々な運動団体」の4つのワロン語の擁護に携わる団体の各カテゴリのワロン語の「標準語」についての立場と、19世紀後半に存在したワロン運動の伝統が現在の運動に及ぼしている影響について調査を行った。 前者については、11月初旬にベルギーで実施した復権運動の関係者への聞き取り、昨年度収集したワロン文化協会刊行の雑誌『ワロンヌ』掲載の記事の分析を通して、先の4つのカテゴリのうち、より公的な度合いの高い団体はワロン語を文学の言語として保存することを目標とし、一方で、より公的な度合いの低い団体は日常の言語として復権させることを目標と設定しているという対照的な構造が明らかになった。また、実際の言語法の整備・施行状況や公的な言語機関の活動状況との比較により、そうした運動内に存在するワロン語の目指すべき将来像に関する立場の違いが運動の進展への阻害要因となっていることを示した。 後者については、先述の『ワロンヌ』掲載の記事と、同協会が19世紀後半から刊行していた『ワロン文学協会年報』と『ワロニー語・文学協会会報』の両雑誌のそれとの比較を行った。その結果、かつて対オランダ語(フラーンデレン語)の文脈でワロニーの言語的均質性を主張するために創り上げられたワロン語観が現在においてもそのまま受け継がれていることを確認し、こうした19世紀後半のワロン運動の伝統が現在の運動に及ぼしていることを示した。
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