戦時・戦後期の都市社会に生活する人びとによる文化活動の具体相とそこに表現された社会認識を実証的に解明することが本研究の目的である。平成22年度においては、1.本研究における主要な研究対象である、戦前・戦時・戦後にかけて文化活動を展開した建築技術者竹村新太郎の関係史資料のうち、とくに竹村宛書簡の翻刻を進めることができた。2.竹村や竹村とともに文化活動を行った建築技術者の関係者への聞き取り調査をのべ9人に対して実施し、彼らの生育環堤、戦時・戦後における動向など従来文献では得られなかった事実を発掘することができた。なお聞き取り調査の過程で文化活動参加者に関する新たな史資料を得られたので、これらについての調査も平成23年度に進行する予定である。3.NPO法人西山夘三記念すまい・まちづくり文庫における史料調査・収集において、1930年代前半および1940年代後半における建築技術者の文化活動に関する史料、1930年代後半におけるエリート建築家を中心とする文化活動団体である日本工作文化聯盟に関する史料(機関誌『現代建築』など)の調査・収集を実施した。これら調査・収集した史資料の分析の結果得られた知見を含めた研究成果の一部は、1.戦時・戦後期の文化活動の前提となる1920年代の活動について検討した「1920年代における文化活動の意味-創宇社建築会の結成、あるいは<原始>への憧れ」(東京歴史科学研究会近代史部会)、2.竹村新太郎ら逓信省に勤務した建築技術者たちが参加した1931年の官吏減俸反対運動と文化活動の関連性について検討した「『我等のニュース』にみる雇員・傭人の文化-1931年の官吏減俸反対運動における」(「歴史と人間」研究会)として口頭で発表し、学術雑誌への論文としての掲載のための準備を進行している。これら以外の成果についても積極的に発表していく予定である。
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