本研究は、日本近世文学の中で、狭義の滑稽本とされる、『道中膝栗毛』初編(享和二年刊)以降、江戸において出版された、滑稽を主題とする中本型の作品群を取り扱う。これらの正確な出版年表と書誌情報をまとめ、さらに各作品の梗概を付すことを、本研究は、第一かつ最大の目的とする。洒落本に関しても、滑稽本への影響が強く、また構成や文章において、明確な類縁が見える場合は、滑稽本と同様に扱い、享和元年以前の部として年表に記載することを第二の目的とする。そして、洒落本と滑稽本の枠をこえて、内容ごとにまとめて、分類し、具体的には、系統を示すための系統樹図が作成出来る場合、それを作成することを第三の目的とする。 今年度は、目標である享和二年から明治九年までの滑稽本の書誌の収集と年表作成を実行した。国文学研究資料館のデータベース、収蔵の紙焼きやマイクロフィルムのほか、蓬左文庫のマイクロフィルムを用いて、多くの本の書誌を収集した。結果として、享和二年から慶応三年までのすべての滑稽本である332点の年表を作成した。 年表には、作者名、画工、巻冊、成立年のほか、主な所蔵先や翻刻・複製の有無などを記してある。原本や影印、マイクロフィルムを用いた調査は全体の点数の三分の二ほどに留まっており、翌年も作業を続け、版元情報を確定し、書誌を完全にする必要はあるが、滑稽本の全体像が今回の年表作成により見えてきたことは、滑稽本にとどまらず、類縁関係のある洒落本や人情本の研究にとっても有意義である。 来年度は研究を継続し、第一目的の完遂とともに、第二、第三目的の達成を目指す予定である。
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