二年間にわたる研究の最終年として、最大の目標である滑稽本の年表をおおよそ完成させた。年表は「滑稽本出版年表(未定稿)」と「滑稽本写本年表(未定稿)」の二部構成である。年表は『日本古典籍総合データベース』のデータを基本とするが、その中で「滑稽本」となっているものから、草双紙の形式のものを除いて作成した。それに蓬左文庫や三康図書館などが所蔵する明治期の滑稽本を加えて、年表を完成させた。 「出版年表」は享和二年から明治二十三年まで、約三百二十点の作品を収める。「写本年表」は約三十点であり、ほとんどが稿本か版下のまま出版されなかった作品である。 原本・マイクロフィルム・影印本から書誌を収集し、『日本古典籍総合データベース』の間違いを訂正し、曖昧な部分を補った。 項目は、「書名」「書名のよみ」「巻冊」「著者名」「著者名のよみ」「画工名」「序跋年」「序跋者」「成立年」「版元」「所蔵先」「複製・翻刻情報」「注記」からなる。版元や異版の情報を収めたので、善本の捜索がしやすい。また、題名から内容が推測しにくい作品には、「膝栗毛物」「素人芝居物」などおおまかな内容を「注記」に書いた。 出版史の全体像が把握されていなかった滑稽本について、それが明らかになったことは大きな成果である。今後、本年表は、滑稽本の研究のための基礎資料として広く利用されると思われる。また、類縁性のある洒落本・人情本の研究にも活用されるであろう。 年表の作成時に次のような知見をあらたに得た。芝居物の滑稽本が浮世草子と関係が深く、趣向や詞章を多く利用している。また、笑いを中心とする滑稽本では見過ごされがちだが『浮世風呂』『浮世床』といった式亭三馬作品では教訓性が重要な役割を果たす。
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