研究概要 |
津久井尚重『南朝編年記略』・『南朝皇胤紹運録』や、同時期に流布した『南朝公卿補任』、またこれと共通する特異な記事をもつ柳源紀光『続史愚抄』を中心に、近世に成立した南朝関係の史書について、諸所に蔵される写本の調査を行い、これら南朝関係の史書の伝本・資料源・成立・影響関係、またこれをめぐる人物関係について検討を行った。 まず、上記の諸書には神戸能房編『伊勢記』と共通する特異な記事があり、それらの記事は『北畠准后伝』にも共通することに注目し、『北畠准后伝』の成立と作者について、『伊勢記』と比較して検討した。その結果、『北畠准后伝』は『伊勢記』と同じく神戸能房の作である蓋然性が極めて高いことが明らかになった。これについては、拙稿「『北畠准后伝』と神戸能房編『伊勢記』」(『語文』第97輯,2011年12月)を発表し、研究成果を公表した。 また、『南朝編年記略』・『南朝皇胤紹運録』の内容について検討する前提として、第一に、その作者である津久井尚重をめぐる人物関係を検討し、尚重が京都の有職学者らと密接な関係をもっていたことを明らかにし、上記両書の成立の背景には京都の有職学者たちの人的交流があったと推定した。これについては、拙稿「津久井尚重の研学と交流-附・名古屋市蓬左文庫蔵『講席余話井抄出』所収学統図翻刻-」(『詞林』第50号,2011年10月)を発表し、研究成果を公表した。第二に、『南朝編年記略』・『南朝皇胤紹運録』が水戸藩の『大日本史』を引用していることに注目し、近世中期における『大日本史』の流布状況と伝本の性格について検討することにより、尚重が引用した『大日本史』の伝本の性格について、おおよその見通しを立てた。これについては「津久井尚重『南朝編年記略』における『大日本史』利用の前提」と題し、大阪大学古代中世文学研究会(2012年3月)にて中間的報告を行った。
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