本研究は、鎌倉幕府・江戸幕府という前後の武家政権の首班にはみられない室町幕府将軍の「公家化」という現象に着目し、室町殿権力の特徴、中世後期における公家社会の存在意義や公武関係の特質の一端を探ろうとするものである。 今年度は研究課題の達成に向けて、主に基礎的な作業を行った。研究材料は公家の日記史料が中心となるが、研究計画でも述べた通り、当該期の公家日記は比較的豊富にあるものの、活字化されていないものも少なくない。そこでまずは各機関に出向き、未刊行史料の原本調査と写真焼き付けを集中的に行い、広範な史料収集に努めた。具体的には、国立歴史民俗博物館で『兼宣公記』を含む廣橋家旧蔵記録文書典籍類、東京大学史料編纂所で京都御所東山御文庫、天理大学附属天理図書館で『吉田家日次記」、宮内庁書陵部で『管見記』を調査した。これら未刊行史料のほか、『久我家文書』や『建内記』などの既刊史料もあわせて分析を進めた。 まだ分析の途中の段階にあるが、一定度の見通しを得ることはできた。室町殿は公家社会に進出し、諸儀礼に参加するようになるが、それに積極的に協力する公家は官位昇進・所領獲得などの恩恵に預かっていた。これにより室町殿に対する「忠節の競合状態」が現出するが、その裏では少しのミスが室町殿の反感を買い所領没収に遭うなど、室町殿を中核とする求心構造が不安定性の上に築かれていたと考えられる。 なおこれまでの研究成果も含めて、大学の研究者と高校教員で組織する大阪大学教育研究会にて、室町殿権力の性格について考察する報告を行った。また昨年刊行された関連書籍に関する紹介を、学術雑誌に掲載した。
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