本研究の目的は、(1)実践上の課題:障害者を含む音楽グループの調査と、(2)理論上の課題:臨床から得られた知見をもとに考察することに分けられ、それぞれの課題を往復しながら研究を行うことにより、「臨床音楽学」の構築に向けて議論を進めることである。 実践上の課題に関しては、筆者が主宰する即興演奏活動グループのメンバー計16名にインタビューを実施し、グループ内で音楽の価値観がどのように形成されているのかを調査した。これにより、グループの参加者である知的障害者、その家族と音楽家の詳細な参加動機、目的と参加後の価値観の変化を捉えることができた。 理論構築に関しては、実践から得られた知見をもとに、音楽療法論、音楽学、音楽教育学、障害学、コミュニティ論などの観点から領域横断的に考察し、その成果を第3回国際音楽療法研究学会、第13回世界音楽療法大会、及び日本音楽学会第62回全国大会で発表した。この考察の過程においては、文献講読と共に、ニューヨークと韓国の出張により他の文化圏における同様の活動を調査できたことだ、より多角釣な規点を得るために大いに役立った。 また、これらの実践における調査と理論構築の往復によって研究を進めることにより、従来西欧圏で障害者の社会参加や多様な価値観を持つ参加者が共同で創作する活動を考察する際に良く用いられてきた結束、連帯やつながりといった概念のみでは捉えきれない新たな側面を見出すことができた。
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