本研究では、多様な文化財に含まれる膠の原料である蛋白質コラーゲンに着目し、その質量分析により得られるアミノ酸配列情報から原料動物を同定することで、文化財の産地、製造法などの歴史情報を解読することを目的としている。本年度は、文献資料情報を基に、墨、仏像、そして壁画などに使用された可能性のある動物膠を推定し、それらの膠試料の収集、調製および分析を進めた。現時点で、牛、馬、豚、驢馬、鹿、鰾(ニベ)を原料とした動物膠を収集しており、およそ数mgの膠試料からコラーゲン由来のペプチドを抽出する方法を確立することに成功した。更に、それらのマトリックス支援レーザー脱離/イオン化タンデム飛行時間型質量分析装置による詳細な解析を完了した。その結果、質量分析により得られるアミノ酸配列情報から、極微量の膠試料からでも上記の動物種を判別することが可能であることを明らかにすることが出来た。今回確立した手法は、各種文化財に含まれる膠の原料となった動物種の同定作業にも適用可能である。現時点で、国内外から膠を含む文化財試料の提供を受けている。本研究で動物膠に関して得られた情報を基に、今後は、それらの文化財に含まれる膠の解析を進める。様々な文化財試料中の膠の原料となった動物種が明らかになれば、文献資料との綿密な照合結果と併せて、それらの文化財の産地、製造法などの情報から古代の交流史が明らかになるだけでなく、仏像や壁画などの場合、同様の膠を再度調製し修復する為の有益な情報を与えると考えられる。
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