動物中に最も豊富に存在するタンパク質であるコラーゲンは、膠として幅広い文化財に利用されている。本研究では、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化タンデム飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析法を用いて文化財中の膠の解析法を開発した。 文献調査の結果、膠の原料として用いられた可能性のある動物は、牛、鹿、魚、驢馬、そして兎など多岐に渡ることが判明したため、先ず、それらの膠を収集し、MALDI-TOF質量分析を行う必要があった。その結果、各動物のコラーゲンのアミノ酸配列は非常に似ているものの、動物種に応じて若干の違いが見られることが判明した。このわずかな配列の差を利用して、およそ270年前および1300年前に奈良県で製造された墨に含まれる膠の原料動物種が牛に由来すると推定した。
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