平成23年度は、上代と中古のモノゾ(ソ)文(名詞モノに連体修飾節が上接し、モノにソ・ゾが下接して終止する文。以下、「モノゾ文」と呼ぶ)について記述・考察した。モノゾ文は<代用><一般的傾向><必然><当為><詠嘆><推量>等、さまざまな用法を持つ。そして、連体形に助詞ソ・ゾが下接して終止する構文(以下「連体形+ゾ」文)は、上代においてはいわゆる推量の助辞ムがゾに下接して「-ムゾ」という形式が現れるが、中古には現れなくなる。本年度の成果により、上代には見られない、モノゾ文の推量用法(文末形式は常にムモノゾ)が、上代の「-ムゾ」文と類似の表現内容、推論方式を担い、構文的特徴も多くの点で共通していることが明らかとなった。本年度の最終的な成果は、2012年9月刊行予定の論文集『日本語文法史研究』第1号にて「モノゾ文による推量表現の成立」という題目で公表される。またこの論文では、推量表現以外のモノゾ文の多くが提題のハと共起するのに対し、推量用法のモノゾ文には提題のハが原則として現れないという点も指摘した。これは川端善明(1994)「係結の形式」(『国語学』176号)に言う「助詞の呼応」の一つ「ハ-ゾ」が推量用法の際には観察されなくなるということでもある。本研究で示した他の構文的特徴も踏まえると、中古のモノゾ文の推量用法は、ムモノゾ形式が複合辞として文法的意味を担っていると見なせる。このことは、名詞述語文の歴史や複合辞研究の観点からも興味深い現象であるが、連体形述語文の研究においても重要な意味を持つ。モノゾ文の推量用法は未然形接続の複合辞ムモノゾによるものだと解釈した場合、上代の「連体形+ゾ」文の一部の用法が連体形述語文ではない構文に受け継がれたことになるからである。このことが連体形述語文の変容によるのか、ムの変容によるのかという新たな論点を見出せたことが本年度の成果である。
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