22年度は、当初の計画では上海京劇と歌仔戯の相関関係について調査する予定であったが、本研究における主要資料のひとつである国立民族学博物館所有の日本コロムビア外地録音レコードにデータ未整理のものが多数含まれていたため、予定を変更してそれらを再整理した上で、歌仔戯のレコード吹き込み内容の実態調査を行った。戦前の歌仔戯の活動状況を把握するためには、当時名称が固定していなかった異名同義の劇や音楽ジャンルを、その音楽的性格に基づいて整理することが必要と判断したためである。 日本コロムビア外地録音レコード吹き込み内容の実態調査から明らかになった主たる事柄は、次の二点にまとめられる。ひとつに、劇および音楽ジャンルの異名同義性は使用楽器などの上演形態が主な原因となっているが、一方でとくに劇においてはその音楽的性格すなわち主要旋律は保たれており、異名であっても同種であることをその音楽が示すということである。よって、劇の上演形態や名称は時代を反映し変化しやすいが、主要旋律がその形を保つことで劇種としての独自性が維持されるといえよう。もうひとつに、少なからぬ歌仔戯の役者/楽団員が歌仔戯以外のジャンル(京劇/北・南管/流行歌など)の活動を歌仔戯と並行して行っていることが挙げられ、その際、場合によって言葉も使い分けている。またレコード会社所属の文芸部という組織単位で歌仔戯の音楽制作が行われる場合が多く、その組織のメンバーには歌仔戯の専門家以外も多く含まれる。よって、歌仔戯の役者と楽団員、制作者による他ジャンルとの直接的な交流という事実は、新しい素材や技法の歌仔戯への積極的な導入(模倣)を示唆し、またその導入後の定着は、台湾の大衆に馴染み、かつ歌仔戯の独自性を損なわないという二つの前提の上に成り立つと考えられる。
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