23年度は前年度に引き続き、国立民族学博物館が所蔵する日本コロムビア外地録音レコードの吹込み内容に関する実態調査を行った。調査の主たる内容としては、歌仔戯を中心とした戯曲関係のレコードを実際に聴き、楽器編成・劇中音楽の旋律・和声進行の有無といった音楽的特徴を抽出したことが挙げられる。伝統的な中国戯曲の地域的特徴は、使用楽器とその編成方法、そして当該地域に伝わる民謡などの旋律をベースにした劇中音楽の中でもとくに歌唱旋律に現れる。また、伝統楽器以外の使用や新作旋律、そして西洋音楽的な和声伴奏から、伝統戯曲の発展の様相が確認できる。レコードに附属する歌詞カードなどその他文字資料から得られる情報は、演目名や吹込み者の氏名などに限定されたが、記録された音情報を実際に聴き取ることで、様々な芸能の影響を受けて柔軟に様相を変える当時の歌仔戯の姿がより具体的に現れた。とりわけ、歌仔戯に限定せずにレコードを試聴し採譜したことによって、異なるジャンル間における音楽の共有や、当時の流行音楽の様式を用いた歌仔戯音楽の「モダン化」、他の中国劇音楽様式の導入と歌仔戯で従来より用いられていた様式の使い分け、観衆(聴衆)が好む歌仔戯の悲劇性に応ずるような新作旋律の増加などが明らかになった。録音資料を効果的に用いた研究により、成長期から成熟期に至る歌仔戯の変容する音の様子が明瞭になり、また時代の音楽も地域的特色の一つとして取り入れていく歌仔戯の広汎さが見出された。
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