研究概要 |
本研究では、日本人英語学習者のワーキングメモリ(Working Memory:WM)容量が、前置詞を含む文のような統語的曖昧文の文処理プロセスに与える影響を調べることが目的である。平成22年度では、以下の研究を行った。(1)リーディングスパンテスト(Reading SpanTest:RST)時の被験者の四配分効率に関する研究(Nakanishi&Yokokawa,投稿中)、(2)前置詞句を含む文処理課題の実験計画の作成である。(1)では、4種類のRST(通常版・日本語訳判断課題版・文法性判断課題版・意味性判断課題版)を用い、RST得点間の比較と英語習熟度テスト成績との相関分析を行った。その結果、文法性判断課題を含むRST得点が有意に低く、日本語訳・文法性判断課題版RST得点と習熟度成績との相関が高かった。このことから、日本人英語学習者は、統語処理が自動化しておらず、処理コストにWM資源がとられたため、記憶にWM資源を回せていないことが示唆された。また、日本語訳・文法性判断課題版RSTが習熟度を反映する指標になることが示唆された。(2)では、その日本語訳判断課題版RSTを用いて、日本人英語学習者のWM容量を測定し、WM容量が前置詞句を含む4種類の文(1高位接続・短距離条件、2低位接続・短距離条件、3高位接続・長距離条件、4低位接続・長距離条件)の文処理プロセスに与える影響を調べるため、課題間の単語親密度(横川編 2006)を統制し、実験デザインを組んだ。実験は、SuperLab Proを搭載したコンピュータを用いて行い、正解率・処理時間・解答時間を指標として分析を行う予定である。日本人英語学習者においても、英語母語話者同様、低位接続文の方が、高位接続文よりも読み時間が長くなるという最少付加原則に基づいた文処理傾向が観察されるのかどうか調査を行う。
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