研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、(1)日本人英語学習者において、ワーキングメモリ(Working Memory:WM)に特に負荷のかかる処理段階を特定するため、リーディングスパンテスト(Reading Span Test:RST)を用いて調査し(2)日本人英語学習者の言語処理の特徴を、WM容量の個人差という視点から、前置詞句付加構文を用いて調査した。 (1)Sugiura & Nakansihi(2011)は、ある程度の語彙知識量のある学習者において、語彙アクセスの正確性と速度を測定するテスト(Computer-based Enghsh lexical processing test:CELP)得点とRST得点との相関が有意であったことから、語彙アクセスの自動性の程度がWM効率性を左右することを示唆した。また、Nakanihi & Yokokawa(2011)では、統語処理に注意を向けさせたRST得点が他の処理(意味・語用)に注意を向けさせたRST得点よりも有意に低く、英語習熟度テスト成績との相関も高いことから、特に日本人英語学習者は、統語処理が自動化しておらず、その自動性の度合いがWM効率性を左右することを示唆した。 (2)Nakanishi(2012a)では、日本人英語学習者をWM容量により2群に分け、a)動詞句付加構造:The woman visited the man with a car instead of walking. b)名詞句付加構造:The woman visited the man with a car instead of the man with a bike.の処理成績を比較したところ、WM容量に関わらず、a)における成績(正解数・解答時間)がb)よりも上回った。このことから、日本入英語学習者は、英語母語話者同様、最少付加方略を用いて文処理を行っていることが示唆された。しかし、前置詞句の意味情報が利用できる条件下、例えば、a)動詞句付加構造:The girl talked to the teacher with a sweet voice because she wanted to change her grade. b)名詞句付加構造:The girl talked to the teacher with a tie and asked him where he bought the tie.の成績を比較したところ、WM容量に関わらず、a)、b)聞で成績の差はみられなくなった。これは、前置詞句の意味情報が統語解析に影響を与えていることを示唆している(Nakanishi, 2012b)。 これらの研究から、日本人英語学習者は、特に統語処理が自動化されておらず、そのため意味情報が利用できる状況下では、WM容量に関わらず、意味情報に依存しながら統語解析を進めていくことが示唆された。
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