本年度中に発表した「幸田露伴「頼朝」論」および「根岸党の旅と文学」は、常勤研究職への採用によって中断した日本学術振興会特別研究員PDとしての研究課題「明治期の文人ネットワークに見る近世との文化的接続に関する研究-幸田露伴を中心に-」の成果である。本年度は特に、後者の研究によって得られた知見と課題を発展させた研究を行った。 まず、明治中期に活躍した文人サークル、根岸党のメンバーであった高橋太華の日記の所在が、慶應義塾図書館において確認されたことを受け、同館および遺族の許諾のもとに翻刻と注釈を行った。明治25年の1月から3月まで記されたこの日記には、幸田露伴・岡倉天心・森鴎外ほか多数の文化人との交遊が記録されており、明治期の文人たちの交流を知る貴重な資料である。本年度は1月前半の翻刻・注釈作業を行い、彼らのネットワークの実体についての把握を進めた。なお、この内容は『東海大学紀要文学部』第94輯(近日発行予定)への採録が決定済であり、1月後半以降の日記についても、翻刻・注釈作業を引続き進めている。 また、これまでその実体が正確に知られていなかった根岸党について、成立から解体までの活動を新聞・雑誌類に発表された作品によって詳細に明らかにし、あわせてそれらの内容と意義を具体的に解明した。これにより、江戸期の文化を身につけた文人たちがまだかなり残り、旧き感性と新時代の思潮や新しい文物とを自然に融和させていた明治期の文化状況の特徴と、そうした交遊の空気を作品に描き出した根岸党の文化的位置が明らかになった。この研究成果は、本年6月に教育評論社より単行本として刊行予定であり、現在その最終作業に入っている。
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