日本帝国において資本主義的システムが形成されつつあった1920年代~1930年代に焦点を当て、「社会主義」をめぐる合法・非合法的商品が、植民地での市場拡大を試みながらどのように競争していたのかについて注目した。2011年は、以下の三つの点に中点を置いて研究を進めた。(1)新しい研究をスタートさせるための研究資料の構築(資料の調査・分析を含む)。日本帝国の領土内では流通が困難であった非合法的書物が米国で作られ、植民地朝鮮に輸入されていたことに注目し、その手がかりを求め、THE KOREA SOCIETY、ハーバード大学、米議会図書館などで調査を行った。(2)韓国・アメリカにおける日本語・朝鮮語書物の流通・検閲をめぐる共同研究との連携。ワシントン大学で、日本語書物の南米や北米への流通を専門とするE.Mack教授と共同授業と共同調査を行った。また、韓国の検閲研究者らと2回のワークショップ(東京とソウル)を開催した。(3)国際ワークショップを企画・開催し、複数の言語による領域横断的な成果の公表を試みた。日本語と英語による『検閲・メディア・文学』(新曜社、2012・4)の刊行に参加した。奈良教育大学の中谷いずみと連携し、「接続の政治学」という国際ワークショップを2回(7月、12月)開催した。大妻女子大学の五味渕典嗣と連携し、日米韓の書物の流通に関する専門家を招聘し、国際ワークショップ「1930/1960、制度・資本・移動」を開催した。また、引き続き、カナダMcGill大学のAdrienne Carey Hurley教授による『Documentary History of Anarchism in Japan』出版計画に参加している。日本、韓国、アメリカにおける検閲、書物の資本化の問題を、異なる言語・異なる専門分野、異なる地域で活動する研究者とのネットワークを構築することによって、より複合的な側面から捉える基盤が形成されつつある。その意味において、最初に提出した研究目標を充分達成することが出来たと思う。
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