本研究は、日本漢文学史・思想史を再構築するための初段階として、新たに中国初唐・太宗の「貞観の治」を視座として、9世紀の初期・中期・末期である(1)嵯峨朝、(2)清和朝、(3)宇多朝、および前後の時代における文章経国思想とその変遷について通史的かつ複眼的な見解を示すことを目的とする。 初年度である平成22年度の(1)嵯峨朝・(2)清和朝に関する調査を受けて、2年目である平成23年度(当該年度)は、第一に(3)宇多朝の文学作品・歴史書・法典を読解し、太宗の文治政策の理念や実態をあらわす事例、語句・表現と共通、あるいは相違する箇所を析出した。第二に、これらのデータに基づいて、宇多朝における「貞観の治」の受容層と文章経国思想がどのように変容したかについて考察した。そののち、この結果と前年度の(1)(2)について得られた結果を比較し検討した。第三に、第一の工程によって析出した文字データと、それを含むテキストや先行研究の画像データを採取・加工して重要語句ができるようにした。 当該年度に実施した研究の意義は、漢詩文隆盛期であり従来研究されてきた嵯峨朝・宇多朝と、研究の立ち遅れてきた清和朝を、太宗「貞観の治」の受容と文章経国思想という同じ物差しで比較対照し、再評価した点や、嵯峨朝の文章経国思想を前時代の言説と比較して源泉を探った点、そしてデータベースを構築することで、今後本研究研究諜題を発展させていくための基盤を作った点である。
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