研究概要 |
本研究は,最終氷期極相期(LGM)における日本列島東半部の環境に適応した人類の行動戦略や資源利用技術の特徴を浮彫することを目的に,1.石器使用痕分析,2.古環境情報の整理,3.石器使用痕分析と古環境情報の成果に関する比較検討を実施した. 1について,(1)LGMの本州東北部に展開した杉久保石器群,(2)晩氷期の本州東半部に展開した北方系削片系細石刃石器群,(3)LGMの北海道に展開した石刃石器群,そして(4)晩氷期の北海道に展開した札滑型細石刃核を伴う石器群を対象に使用痕分析を実施した.(1)に関する研究成果を公表し,(2)~(4)についても研究成果の公表を準備中である. 2について,後期更新世後半における気候,植物相,動物相に関する既存のデータの集成・整理を行った.特に後期更新世後半の大型哺乳動物の絶滅に関する研究成果を公表し,また陸生哺乳動物に関する文献を集成し,その公表を行った. 3について,杉久保石器群と,札滑型細石刃核を伴う石器群および北方系削片系細石刃石器群を対象とした石器使用痕分析を比較し,それぞれの石器使用や資源利用の相対的な特徴を考察した.そして杉久保石器群には骨や角の加工を示す痕跡がほとんど観察されない一方で,札滑型細石刃核を伴う石器群や北方系削片系細石刃石器群には,骨や角の加工を示す痕跡が高頻度に観察されることを指摘した.この結果は,相対的に木質資源の豊富な環境に適応した集団は,骨や角を道具資源として利用する技術を高度に発達させなかったこと,一方で木質資源の乏しい環境に適応していた集団はそうした技術を高度に発達させた可能性を示唆している.集団の適応した環境に応じて,石器の使用方法や被加工物に差異が生じていた可能性を示唆し,また石器使用痕分析が地域的あるいは時期的な技術適応の差異を考察するために,少なからず貢献できることを示している.
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