粘土帯土器文化の東北アジアにおける意義を明確にするため、今年度は、(1)朝鮮半島における青銅器時代文化と粘土帯土器文化の階層構造の差異、(2)中国東北地方における粘土帯土器文化の社会組織の特質とその形成過程について検討を行った。 中国東北地方及び、朝鮮半島の青銅器時代の社会組織の程度を知るためには、当時の中心的な墓制であり、協業を必要とする支石墓の分析が不可欠である。現在の遼寧省にある支石墓の調査をすでに前年度までに終えているので、今年度は吉林省の支石墓の調査を行った。そして、今年度は最終年度であるため、前年度までの調査内容を合わせ、上記の二項目の検討を行った。 その結果、墓制の分析によって、遼東地域の粘土帯土器文化は、努魯儿虎山以北の夏家店上層文化から、或いは凌河流域の十二台営子文化を通じてその影響をうけ、首長が突出する社会組織を形成することが判明した。これは、周辺の支石墓や大石蓋墓のような巨石をもつ墓を採用していた社会にはみられない特徴である。朝鮮半島でも青銅器時代の支石墓では出自集団の不平等は確認できるものの、首長の存在は不明瞭であり、副葬品と墓の規模との相関性が弱い。これに対し、粘土帯土器文化の墓は、大量の青銅器を保有する人物、少量の青銅器を保有する人物、土器が副葬のみの人物に分かれ、明確な階層構造がみられる。つまり、粘土帯土器文化はどこでも類似した社会組織をもつと同時に、朝鮮半島の階層化の進展が外来からもちこまれたものと理解される。 また、粘土帯土器文化は原三国時代の文化に継承され、階層化がより進展するが、日本列島の北部九州と異なり、隣接地域間における優劣はみられない。広い地域を統合する構造が粘土帯土器文化に欠けていたのか、朝鮮半島の地理的な問題に起因するのかは、明確にはできなかったが、本研究によって、紀元前1世紀頃の日韓の政体の性質の差異は明らかにすることができた。
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