義太夫節人形浄瑠璃文楽という演劇において太閤記物の戯曲群は、人形浄瑠璃の古典化に大いに寄与した重要なジャンルであり、現在でも多くの現行曲がある。しかし、未だ十分な研究が為されているとは言い難いため、作品論および上演史的側面からの考察により、太閤記物戯曲が浄瑠璃史において果たした役割と、戯曲ジャンルとしての特性を明らかにすることが本研究の目的である。 今年度は、研究計画に記載した通り「全人形浄瑠璃の太閤記物戯曲諸本およびその上演に関連する刊行物(番付・絵尽しなど)の調査検討。」を実施した。具体的には、図書館などが発行している目録類からの調査に加え、都内および大阪へ資料調査に赴き、太閤記物戯曲の諸本および番付・絵尽などの資料調査を行った。その中で、現行曲が少ないために今まではあまり省みられることのなかった賎ヶ岳物の太閤記物の浄瑠璃作品の重要性を発見した。そこで、賎ヶ岳物戯曲の作品研究をも平行して行い、成果を「太閤記物人形浄瑠璃における小野お通一賎ヶ岳物と「三日太平記」を中心に一」という論文にまとめ、演劇博物館グローバルCOE紀要「演劇映像学2010」に投稿したところ、査読の上で掲載された。また、2011年2月にはフランスのストラスブールで行われた国際シンポジウム「Colloque international Pourquoi le theatre?」に招聘されて「人形浄瑠璃文楽の太閤記物流行と「木下蔭狭間合戦」」という発表を行った。これは、太閤記物の中でも主要な作品の一つである「木下蔭狭間合戦」の意義と達成についての私見をまとめたものである。 2010年度の研究成果は、一本の査読付き論文と一回の海外招聘講演の中に十全に表わされており、研究が円滑に遂行されているのみならず、その成果は大いに社会に還元されていると言える。
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