本研究は、『霊要門」と『禁百変』の日本古写経本、刊本テキスト、敦煙写本との比較研究を基本的な方法とする。 研究期間中は、日本古写経本数種とフランス国立図書館所蔵敦煌本に関しては原本調査を行い、調書の作成や、所蔵機関の許可に基づく撮影を実施し、それら古写本と刊行流布本のテキスト内容を比較検討することにより、『霊要門』と『禁百変」が現行本の形に定着するまでのプロセスをいくつかの段階に分け、それぞれの年代を概ね特定し、それぞれの段階で生じた変容の背景、要因を分析することを試みる。このような調査研究方法によって、仏典が東アジア世界固有の思想文化という基盤の上で、各地域への浸透に伴っていかに民衆救済の需要に応じ、葛藤と妥協を経験しながら変容を遂げてきたのかについて分析し、東アジア仏教文化形成の一様相に関する確実な新知見を加えようとするのが本研究の最終的目標である。 上記目標を達成するため、平成23年度では世界各地で新たに公開された本研究に関連する新出資料に注意を払いながら現存古写本のリストを更に見直し、国内寺院に所蔵されている聖教本、または昨年度に中国国家図書館所蔵の密教関係の敦煌本の原本調査のデータを取りまとめ、諸テキストを翻刻し校訂作業を進めていた。計画通りに現存諸本の原本調査を終え校訂本の作成が完成し、ようやく『霊要門」と『禁百変」の本格的な文献学的研究に進んできている。また、これまでの調査研究で得られた関連成果の一部は、『鶴見大学仏教文化研究所紀要」(第17号、2012年3月)および2011年6月20日から25日まで台湾Dharma Drum Buddhist Collegeで開催された大規模な国際仏教学会(The XVIth Congress of the International Association of Buddhist Studies)で報告したが、その後の研究で判明したことは引き続き国内と海外の学会や学術誌で公表していくつもりである。
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