本研究は、近代中国における小品文発展の経緯について、その創始者とされる周作人の文芸思想を軸に、1920年代の小品文に関する評論やコラムから、同時代における小品文の文学的位置を明らかにし、同時に、小品文が文学の枠組みを越えて作文教育や出版メディアなど、広義の意味での近代文化の形成に影響した事実を明らかにすることを目的とした。 中国の詩文重視の伝統から言えば、小品文の散文的気風を否定的に捉える見方には一定の妥当性がある。しかしその小品文が、政治的混乱を迎え閉塞感漂う20年代半ばの中国において、近代文化の一側面を形作ったその証左を、文芸雑誌にみる小品文像の変容から窺うことができる。小品文が同時代の中国の人々に与えた娯楽性や近代散文の発展に与えた影響は無視できない。 本研究は、従来論じられることがなかった近代小品文研究について新たな視点を示す試みであった。 前年度から継続して本年度は小品文関連資料の蒐集を行った。特に20年代初頭から後半までの評論や作品を中心に調査、蒐集し分析を行った。具体的な研究の実施内容は次の通り。 1.これまで蒐集した小品文関連資料や論考の問題整理を実施した、2.1の作業と並行して、周作人の評論のなかでも主に20年代後半の小品文作品と小品文教育に尽力した白馬湖派に関する評論を中心に分析した、3.新資料の調査、発掘を行った(北京市、上虞市)、4.研究成果を学会や講演で報告し(日本現代中国学会、日本中国学会、孔子学院)、その内容をまとめ『言語文化研究』、『野草』に発表した。 以上の研究により、従来殆ど論じられることがなかった1920年代初頭の中国における小品文発展の様相を明らかにした。本研究において、日本小品文が近代中国の小品文に直接影響した証左(『小品文練習法』1915)を発見できたことにより、これまでの小品文研究に一石を投じることが出来るのではないかと思う。
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