本研究の中心課題は、12・13世紀のスコットランドの国王証書の分析を中心に、国王宮廷の場における諸侯たちの政治的コミュニケーションの様相を具体的に明らかにすることを通して、彼らの間にスコットランド人としての共通のアイデンティティが形成されていく過程を明らかにすることである。 平成23年度は、昨年度に引き続き夏期に渡英し、スコットランド国立文書館やスコットランド国立図書館をめぐり、国王証書のマニュスクリプト(写本)の調査と収集をおこなう一方、実際に訪問できない文書館や図書館に所蔵されているマニュスクリプトのデジタル複写を依頼し、本研究の分析に必要な史料の収集作業を概ね完了した。 収集した史料をもとに、諸侯の動態を具体的に探るための情報を抽出したデータベースの作成作業を進行中であるが、一部の史料収集が予定の期間通りに進まなかったために、データベースの完成には至っていない。したがって、いまだ統計的な分析に基づく全体像を描く段階にはきていないが、個々の事例からは、移動する国王宮廷が諸侯たちの人的結合関係のハブとしての機能を果たし、多層的な人的ネットワークを構築していく様子が垣間見える。最終的な結論を導くには、すべての史料の情報を総合的に分析した結果を待つ必要があるが、国王宮廷の場における政治的コミュニケーションが促進されていく中で、諸侯たちの間に、地域的な利害を越えた王国の諸侯としての立場が築かれていく過程を具体的に提示することができるとの見通しを得ている。
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