近世の公家文化について、その流布や展開を明らかにすることを目的とし、公家の学知がどのように伝播していったかを明らかにしようとした。 研究計画では、第一に京都・吉田神社の社家で近世後期の有職故実家である山田以文旧蔵資料(静嘉堂文庫蔵)の調査・研究を計画した。最初に山田と関係の深い高橋宗孝という有職故実家の日記の存在(慶応義塾大学図書館蔵)を知り、それを分析したところ、山田の文化活動のみならず、サロン的な共同作業の具体相を明らかにすることができた。彼らの活動については「回禄からの再生-罹災と公家の記録管理-」として『国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究篇』第42号に論文を掲載した。 第二に入木道の展開を考える上ため、江戸幕府の右筆であり、持明院家の門人として持明院流入木道を受容した森尹祥旧蔵史料(国立公文書館内閣文庫蔵)の調査・研究を行なった。また、持明院流入木道が流布した人物や場所(例えば南伊豆町石室神社など)での調査も行なった。そして、森尹祥の入木道の「秘伝」に関する著作を分析し、受容者にとって、入木道がどのような意味を持ったかについて検討し、本来公家家職であるはずの入木道がやがては武家にとって不可欠な文化になっていったという点を明らかにした。この点については、「公家家職から見た天皇制 入木道という家職のあり方」として、『近世史研究と現代社会 歴史研究から現代社会を考える』(清文堂出版、2011年4月刊行予定)に論文を掲載することになっている。 なお、有職故実については、既述の高橋家の日記を分析する中で、近世後期の即位礼・大嘗祭に挙行の際、有職故実家である人物と関係の深い官人が自己の古代由緒を語る動向を明らかにすることができた。そこで、宮内庁書陵部・国立公文書館などの機関で関係資料の調査を行なった。この点については「近世後期の即位儀礼をめぐる動向」として、『近世の天皇・朝廷研究』第3号に掲載した。
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