平成23年度には、社会保障法が契約秩序・民法秩序によって規律されている具体的局面を横断的に検討すると当時に、より根本的な研究として、社会保障法における理念のひとつとされる連帯の理念を、民法の理念を手がかりに明らかにすることを行った。 具体的には、民法基底的法体系論に依拠しつつ、民法においても自由・平等と並ぶ理念として連帯を掲げる学説に着目し、その学説が民法における連帯をどのように捉えているのかを検討し、以下のように分析した。まず、民法は、自由な個人を尊重しつつ、他者との共存を可能とするために形成されてきたさまざまな社会的規範によって個人の自由を枠づけることも志向しており、これが連帯の原理あるいは共同性と表現されている。つぎに、民法における連帯の原理のもう一つの特徴は、個々人が共生のための制度を自分たちで構築することができるということである。このように民法を理解すると、民法では「公共性」(res publica)を主体的・能動的に構築し参加する個人(市民(citoyen))が想定されているといえる。 こうした民法の分析を前提に社会保障法を理解すると、第一に、共生のための制度である社会保障の構築や運営において、当事者の主体的・能動的参加が重要性であることが導かれる。第二に、社会保障における当事者間の再分配について、その規範的根拠を民法に求めることができるようになる。こうした社会保障法のとらえ方は、従来の学説とは異なるアプローチであり、社会保障法における連帯の意義を複眼的視点から捉えることを可能とし、市民から構成される社会における制度としての社会保障の原理を解き明かすことに資するものと思われる。すなわちこうした社会保障法のとらえ方は、社会保障における個人・社会・国家の相互関係を新たに規律する原理を導き出す点で重要であると思われる。
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