1.本研究の目的 本研究は、フランスにおける後継ぎ遺贈類似の制度(信託的補充指定)に関する歴史研究を基礎として、日本の後継ぎ遺贈を巡る問題を検討するものであり、その目的は、処分権能に関する一般的考察の基礎を形成することにある。 2.平成23年度の研究成果 平成23年度は、主に、平成22年度中に検討することができなかった事柄、すなわち、信託的補充指定における遺留分保護について取り扱う予定であった。そこで、ローマ法における信託遺贈につき、受託相続人に相続財産の一定部分を与える制度(トレベッリアーヌムの四半分)を検討した上で、その制度がフランス革命前のフランスにおいてどのように展開するかを追跡した。特に、トレベッリアーヌムの四半分や義務分等の「取り分」を一通り検討した上で、それぞれの優先劣後について考察を加えた。但し、素材の複雑さ故に、フランス民法典制定後の状況については、今後の課題とせざるを得なかった。 また、信託的補充指定の世代数についても綿密な調査が必要であるため、ローマ法(特に、新勅法集成第159号)から旧体制下の諸王令、そして、フランス革命期の立法動向についても、昨年度から引き続き検討を行った。 ところが、後継ぎ遺贈に関する日本法の検討は明らかに不十分であり、今後の検討課題である。なお、これに関連して、処分権の制約に関する素材という意味で、譲渡担保に関する判例研究を公表した。後継ぎ遺贈とは明らかに異質な素材とも考えられるが、所有権概念に再考を迫る素材として、譲渡担保も後継ぎ遺贈と同様の問題意識をもって研究する必要がある。つまり、上記の判例研究は、その準備作業という意味を持っている。
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