本プロジェクトは22年度9月から開始したため、具体的な成果は英文ニューズレターの一本に留まり、今年度は主にインプットに力を注いだ。特に国際関係とは異なったディシプリン-論理学、科学哲学、歴史学-などの領域の専門書・論文を広く渉猟した。また、10月に出版された拙稿「国際関係論における歴史分析の理論化:外交史アプローチによる両者統合への方法論的試み」『リヴァイアサン』47号、を分野の異なった専門家に読んでもらうことで、今後の研究の展開に有用なコメントを色々と頂戴した。 その結果、(1)前提が真であれば結論も真理を保全する演繹法が、社会科学領域の理論化に適合的ではない点から、仮説-演繹法あるいはアブダクションといわれる方法が中範囲の理論と整合的であることを再確認した(2)独立変数から事例を選択するリサーチ・デザインが、なぜ通常歴史家が行うような事例選択法と異なるのか、という根本的な問いに対する理由を考察し、ある程度説得的な解を得た(3)仮説の発見は論理分析の領域ではなく、心理学の領域であるという主張に対し、科学的発見の歴史をひも解くと、そこには論理学の方法(差異法や枚挙推理など)がうまく使われていた事実がある、という反論があり得ることを明らかにした(4)さらには、歴史学で多く見られる記述的説明と、一般的に社会科学の目的とされている因果的説明を統合する一つの解決法を仮説的に見出した点も、今年度の成果として挙げられる。
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