今年度は、以下の2件の研究を行った。第一に、米国の家計レベルの所得・消費データを用いて、家計消費のモデルを構造推定し、借入と耐久財取引における摩擦の程度を定量的に分析した。主な結果は以下の通り。まず、消費支出の分布について、詳細な記述統計を提示した。特に、四半期と年次データの対数分散を比較し、非耐久財では大きな違いがない反面、耐久財支出については、四半期データの対数分散が年次のそれよりも2倍近く大きくなることを示した。理論モデルにおいて、固定費用の存在は、耐久財の低頻度で大きな調整を示唆するが、これは、四半期と年次データにおける上記のパターンと整合的である。この点に注意して、四半期周期の家計消費モデルを構築し、耐久財取引にかかる費用と借入限度額のパラメータを推定した。その結果、固定費用と部分的な非可逆性を考慮することが、データのパターンを説明するために重要であるとの結果を得た。本研究の結果は、政府の税制、補助金政策に対する家計消費の反応や、耐久財支出の景気変動についての理解を深めるために重要である。 第二に、家計調査と全国消費実態調査のデータを用いて、日本経済における所得・消費分布の変化を分析し、以下の結果を得た。1981年から2008年の間で、所得と消費格差は上昇した。家計間の可処分所得における格差は、労働所得の格差よりも小さく、これは、政府の再分配政策が所得格差の縮小に一定の役割を果たしていることを示唆している。また、世代効果を除去すると、所得格差は年齢とともに拡大することを示した。これは、永続的な家計リスクの存在と整合的である。上記の結果を踏まえて、現在、経済格差の国際比較と、景気変動と経済格差の関係についての分析を進めている。
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