平成22年度は二つの研究を進めた。一つは、人々が自由の観点から予算集合に関する評価(自由に関する選好)を持つ状況において、そのような評価を集計し、人々の予算集合の配分に関する社会的な評価方法を導きだす研究を行った。社会的評価に関する公理とし、(1)自由の観点からの資源配分に関する効率性の原理を要求する公理;(2)予算制約から得られる自由の価値が、自由の選好が同じである個人の間で平等であることを要求する公理;(3)全ての人々が同じ予算集合に直面する事は、自由の平等の観点からは望ましいと主張する公理;などの観点から、いくつかの公理を導入し、それらの公理の間での両立可能性に関して考察した。そこから、両立可能な範囲の公理群を探し、それらによってある平等主義的な社会的評価基準を導きだした。 もう一つの研究として、新しい財が生み出される状況において、予算集合の評価基準を導きだした。この研究によって、異なる社会や異なる時点における予算集合の自由を評価できるようになると考えられる。今回の研究では、(1)個人の帰結に対する評価とは独立に、新しい財が入手可能である事自体が望ましいとする「選択の自由」;(2)個人のある種の帰結に関する選好に依存する形で、生活水準を向上させるかどうかと言う観点から新しい財の入手可能性を評価する「福祉的自由」;という二つの自由の観点から予算集合の評価基準を考え、それらを公理化した。その評価基準とは、予算集合から享受できるある種の購買力を比較する形となっている。
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