本研究では、機会の評価方法に関する研究と、その評価方法を基にした機会の分配に関する研究を行った。ここでの機会とは、何らかの帰結が得られるための選択肢の集まりのことである。本研究では特に、消費者が財の消費に関する計画を行う状況を考え、消費財バンドルの集合である予算集合を選択の機会と考える。 今年度の研究では特に、線形予算集合の評価方法の研究を進めた。この研究では、異なる国・地域や時間の間で、予算集合の評価を通じて機会の大きさの違いを測定する方法を考察した。この測定のために、比較される予算集合が異なる財から構成される状況をモデルとして構築した。これは、国・地域や時代が異なれば、入手可能な財が異なることを表現するためである。 このモデルにおいて、予算集合を評価する際、個人の消費財に関す選好を反映させるか否か、二つの考え方があり得る。このような考え方の違いを反映した評価基準を二つ提示したことが、この研究の一つの貢献となる。 また、一般にある評価基準が満たすべきいくつかの公理を導入し、これら二つの評価基準の特徴付けを行った。この研究の中で最も重要な公理は、新たに財が入手可能になった場合に、個人の機会の大きさがどう評価されるべきかを要求する公理である。個人の財に関する選好を尊重する立場から予算集合を評価する場合には、その個人の選好に照らして望ましい財でなければ、機会の大きさは増えないと考えられる。それに対して、個人の選好と関係なく機会の大きさを評価する立場では、新しい財がどれだけ望ましいかとは無関係に、その新しい財は機会を大きくするであろう。このような二つの考え方を表す公理を用いて、上記の二つの評価基準を特徴づけた。
|