本研究の主な目的は、既存の信用リスクの構造モデルを発展させ、操業中の企業がデフォルトするタイミングとデフォルトした際の企業の状態(回収率の大きさ)をモデル化し、その結果を用いてより現実的でより精緻な信用リスクの計量化を行い、さらに債券やクレジットデリバティブの価格付けに応用することである。 平成22年はデフォルト確率と債権回収率が同時決定される理論的なモデルの構築を行った。具体的には、デフォルト時の担保の価値が債権回収率を決定し、企業価値と担保価値が離散観測しかできないという仮定をおき、デフォルトのタイミングと債権回収率の関係を考慮した信用リスクモデルを作成した。また、パラメーターを変化させて債権回収率とデフォルト確率がどのように変化するか数値計算を行った。このモデルにより、債権回収率がモデルから内生的に決定され、これまでより現実的なデフォルト時損失率の計算を行うことが可能となった。 さらに、モデルではデフォルトのタイミングを早期、標準、遅延と3タイプの異なる条件で発生すると仮定し、デフォルトのタイミングと回収率の大きさを同時決定することができる。また、各タイプの回収率の分布の形状なども数値計算を行い求めた。この成果から、財務健全性条項などがついた債券の価値を求める際に役立てることができる。 以上の結果から、より精緻な債券の価値を算出することにより健全で効率的な債券市場の構築が行われると考える。
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