本研究課題の目的は、「利子率操作型の金融政策ルール(テイラー・ルール)と均衡経路の一意決定性(マクロ経済の動学安定性)の関係についての理論分析」において、従来は重視されていなかったが本来経済に内在する主体の異質性を導入し、政策提言を充実させることである。2011年度は、以下の2点で研究成果があった。 (1)2010年度からの主要テーマであった、異質性を含む2国モデルを修正した。学会報告や知己の研究者からの指摘により、結果としてより確実な分析となった。2種類の貿易財のみの場合、生産に対する利子率の反応が及ぼす影響も考察したが、経済構造に応じて大きく動かすべき国の中央銀行がそうしないと、不安定が克服されるわけではないことが示された。また、非貿易財の存在する経済との比較では、条件付きだが、経済の開放化によって金融政策の安定化効果を引き上げる余地があることも確認された。経済安定化の為に望まれる金融政策の在り方を、経済の国際化という視点でも捉えられることを理論的に分析したのが本研究の貢献の1つである。 (2)他方、金融政策と安定化の関係でなく、最適財政政策についての考察も試みた。生産的な政府支出を含む場合の最適税率が、異質性の一種とも考えられる私的資本に対する社会的地位選好を含む場合にどう変化するか、というものである。私的資本の限界的価値として、生産性に加えて限界効用も含まれる為、最適税率は社会的地位選好を含まない場合より低くなるが、補助率より高くないと政府の予算制約を満たせない、という含みの多い政策が得られた。研究課題の本筋とは乖離している面もあるものの、査読付き論文への掲載が認められたこともあり、今後金融政策の組み合わせなどで一層充実した分析・政策提言につなげる余地を残したとも考えられる。その観点からは、十分意義のある研究といえる。
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