本研究の目的は、刺激の情動価の予期がどのように刺激処理を調節するか認知神経科学的方法を用いて検討することである。この目的のため、初年度は、学習により形成された刺激の情動価の予期が視覚的情動刺激の処理にどのように影響を及ぼすかを検討した。具体的な実験方法は、学習試行とテスト試行に分けられた。学習試行では、情動価の予期を操作するため、International Affective Picture System (IAPS)から高い不快度、中程度の不快度、低い不快度の画像を選定し、それぞれの種類の画像を異なる幾何学図形と対呈示し、幾何学図形により惹起される情動価の予期を操作した。学習試行の後、テスト試行では、それぞれの幾何学図形には同程度の不快度の画像を対呈示し、実験参加者に呈示された画像の主観的不快度の評定を求めた。また、予期により画像の刺激処理が調節されるかを調べるため、画像呈示中の脳波を測定した。その結果、学習試行において高い不快度の画像と対呈示された幾何学図形の後に呈示された画像は他の幾何学図形の後に呈示された画像よりも不快であると評価された。さらに、画像呈示中の脳波の中で、特に画像の不快度や覚醒度と関連する後期陽性成分の振幅は、高い不快度の画像と対呈示された幾何学図形の後に呈示された画像に対して、他の画像に対してよりも大きな振幅を示した。これらの結果より、学習により形成された情動価の予期は、予期の内容に基づき刺激の評価を調節することが分かった。さらに、後期陽性成分は刺激への注意容量の配分や符号化を反映するという先行研究より、情動価の予期は刺激処理を調節することが分かった。
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