本研究の目的は、監査人の独立性に影響を及ぼす複数の要因について実証分析を行うことである。特に、近年国内外で頻発したエンロン事件やカネボウ事件などの会計不祥事との関連から注目を集めている監査報酬、監査人の継続監査年数、監査法人間の競争状況の3つの要因に焦点をあてて分析を行う。また、監査人の独立性は、精神的独立性と外観的独立性から構成されるので、本研究では上記の3つの要因に対してこの2つの観点から分析を行う。監査人の独立性に関するテーマが社会的に注目を集めているにも係わらず、定量的な研究はわが国ではほとんど行われておらず、その意味で学術的にも社会的にも有用な研究である。 本年度は研究計画通り、主に研究に必要な監査人関連のデータベースの構築を進めるとともに、大量のデータを高速処理するためのデータ分析環境の整備を行った。また同時に、監査人の精神的独立性に影響を及ぼすと想定される監査人とクラインと企業との結びつきを代理する要因のうち、監査人の継続監査年数に焦点をあてて分析を行った。当該分析の結果、監査人の継続監査年数が長いほど(7年以上)監査人のクライン企業の業務に対する理解が深まり、より質の高い監査サービスを提供していることが明らかとなった。当該研究結果は、現在行われている監査人のローテーション制度設定の背景にあるコンセプトとは異なっており、現行制度の意義に対する1つの示唆を提供するものである。また、当該研究成果はワーキングペーパーとして公表するとともに、国際学会において報告を行った。今後は監査報酬および監査法人間の競争状況についての分析を進めていくと同時に、これらの分析結果を統合し、監査人の独立性に影響を及ぼす複数の要因を同時に考慮した研究へと拡張し、得られた成果を国際学会や国際学術専門誌等において順次公表する予定である。
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