本研究の目的は、「ドラッグ・ラグ」を解消するために、企業として何ができるのかを経営戦略、特に臨床開発の外部化戦略という観点から考察することである。なお、ドラッグ・ラグとは、新薬の製造販売承認のタイミングが日本と欧米では大きくかい離して遅れている状態を指す。 ドラッグ・ラグの原因として挙げられる承認機関の審査官不足は企業努力では解消できない。しかし、各企業から提出される申請書類の多種多様さが審査に要する時間を長引かせる一因ともいわれる。ということは、申請書類の共通化や標準化を業界の中で率先して進める企業こと、臨床開発をより促進させることができるのではないか。これが本研究の問題意識であった。 そこで、臨床開発業務の外部化や標準化の状況について、国内の複数の製薬会社およびその中の1社の英国と米国の支社、さらに欧州の中堅企業2社の本社の状況も合わせて聞き取り調査を実施した。調査結果の主に以下の3点にそれぞれまとめられる。 【国内状況】国内の製薬会社では外部化への取り組みが積極的な企業と消極的な企業に分かれる。消極的な理由としては、(1)臨床開発業務受託機関(CRO)の能力への懸念、(2)自社の経営資源で十分賄える(3)医師との貴重な情報交換の機会であるため、自社で医療機関に出向きたいとのことであった。 【海外状況】大手および中堅規模の企業はほぼ100%近く外部化を行い、国内企業が外部化に消極的な理由に反駁するような状況が示された。(1)かつてはCROの能力を疑問視していたが、現在ではほぼ信頼している(2)肝心なところは自社で実施(3)医師との情報交換は別の機会にあり臨床試験の場ではないということであった。 以上のことから、日本の医薬品企業が臨床開発業務を標準化して外部化できるかどうかは、企業の能力に関わっていることが分かった。それは費用や時間の問題だけでないということである。
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