(1)内容 22年度終了までに解明された東・南アジアの大気ネットワークの分析結果をもとに、23年度の研究対象としたのが、異なる性質の制度間の調整を試みる協力枠組みであるアジア太平洋共同フォーラムであった。これは、UNEPが主導し、制度的な進展が異なる段階にある、という意味での異種制度間の相互作用を促している。他方、この異種制度間調整を行う試みから構築された共同フォーラムに対して、個別の準地域協力枠組みの参加・協力度合いは異なる。異種制度の調整を積極的に行うというよりは、文字通りのフォーラムとなっているのが現状である。 (2)意義・重要性 国家の行動の変化について、緩やかな制度の存在を前提とする場合の制度的な効果については、国際法分野で先駆的な研究成果が蓄積されている。本研究は、アジアの環境分野で事例研究を行った点に特徴がある。理論的にはチンキンらやボイル、またスローターら国際法分野でのソフト・ローや行政官ネットワーク関係の研究に関連する。 本研究の論点のひとつである、アジアの特殊性とは、国境を超えた問題を考える前にある多様な制約環境(多様な政治制度、経済力の違い)の存在、ならびに過去数十年でのその大変動にある。このような地域で、いかに国を越えて協力するのかというのは、国家間協力という国際関係論分野の伝統的な問題にも答えようとするものである。それゆえアジアに現存する緩やかな協力制度の模索は今後も重要な研究対象となるであろうと報告者は考える。 もちろん、国際政治学分野においても、緩やかな制度の効果については、グローバル・ガヴァナンス論だけではなく、国際制度研究からも、これまで以上に積極的な文脈で議論できるだろう。特に、緩やかな制度の持つ効果、具体的には、緩やかな制度形成の過程で、生みだされた合意がもたらすアクターの行動の変化がそうである。この点において、国際法のソフト・ローの実証研究とも関連する。
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