本研究の目的は、ケニア共和国首都ナイロビ市内のスラム地域-キベラ-に住む児童が、小学校修了後どのような進路を経ているのか、その現状を明らかにすることを目的としている。特に、スラム内の(認可・無認可)低学費私立小学校が、政府に代わる学校教育提供機関として、補完的役割を担うことが可能か検証する。 前年度の事前調査では、キベラ地域の概要と調査対象校を特定することが出来た。これに基づき、本年度は2011年7月に現地調査を1ヶ月間行い、小学校14校(公立2校、私立12校)を訪問し、学校の基本概要を質問紙を用いて調査した。その後、2010年12月に小学校を修了した児童の名簿を基に、修了生一人一人の進路先について、学校長や教職員の協力を得ながら分る範囲で回答してもらった。さらに、その後学校教育を継続出来ていない修了生48名(男子29名、女子19名)の世帯を訪問し、当該児童とその保護者を対象にその要因を明らかにしていった。この過程では質問紙と聞き取りの調査手法を用いた。 調査より、貧困層が多く住むスラム地域の児童の中には、スラム周辺の公立小学校ではなく、スラム内にある認可・無認可私立小学校に通学する児童も少なからずいることが明らかにされた。また、スラム内の小学校を修了した児童の中等学校進学率は68%であり、比較的高いことも明らかになった。このことは、スラム内の私立小学校も、学校教育を提供する場として公立小学校の補完的役割を果たしていると言える。しかし、学校での学習環境(建物、衛生状況、教員免許の有無など)には学校間で格差も見られた。世帯調査から明らかにされたことは、貧困家庭の児童の中には、初等教育を修了しても中等教育進学機会が得られていない児章も存在することである。本研究より、スラム内にある低学費私立小学校がスラムに住む児童の初等教育に対する高い需要を満たしている一方で、学習環境に見られる学校間の格差を是正し、質の高い中等教育の機会を拡充することが求められている。
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