途上国において1)都市部を中心とした賃金雇用部門における教育の収益上昇が、農村家計の子供への教育投資にどのように影響するか、また、2)教育水準が、修学後の就業地域と就業部門選択を通じて、所得配分にどのように影響するかについて、ベトナムの家計データを用いた実証分析を行った。農村から都市へ移動しか労働者の1992年から2006年までの14年間のパネルデータによる分析から、農村出身者が都市労働市場へ参入したときに直面する教育の収益は、この期間の経済発展によって大幅に上昇したことがわかる。 農村家計についての教育投資関数の推定から、教育投資は、この都市労働市場と、農村非農業部門(賃金雇用部門)の教育り収益と正の関係を持つことが分かった。農村家計が将来の就業部門における教育の収益を合理的に勘案して教育投資を決めていることの左証である。また、出身地域での修学水準が高いほど、修学後の都市へ移動し都市労働市場へ参入する可能性が大きいことが分かっている。 教育の費用の面では、義務教育終了後の中等教育段階(高校)への進学に対して家計の所得水準が正の相関を持つことから、教育投資は資金制約があることが分かった。この結果は、初等教育段階から発生するかなりの教育費用が累積的に家計を圧迫することによって、中等(高校)の進学に負の影響を与えていることを示唆する。 これらの結果から、平均的な家計所得水準と比較してかなり高水準と言える初等教育の費用が、その後の修学選択において教育投資の資金制約要因となり、制約のある家計の教育投資の障害になることによって、修学後の就業部門選択(都市労働市場への参入が可能か)に影響し、次の世代の所得配分にも影響していることが判明した。これらの結果から、もし初等教育の無料化が行われた場合、それは教育と、就業部門の選択の可能性拡大を通じて教育の収益へのアクセスを改善し、所得配分を改善するであろうとの示唆を得た。
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