生産性、品質、製品多様性を高水準で同時成立させる生産システムは、日本自動車企業の競争力要因と論じられてきた。ところが今日日本自動車企業は、車種の削減(製品多様性の低下)へと動きはじめた。これは生産システムを転換させうる問題である。 平成23年度の研究においては、その転換に関わる要因として市場、工場(生産拠点)、競争に着目した。これら3要因の通時的考察から、日本自動車企業が生産システムをいかなる方向へ展開しようとしているのかについて論じた。 結論は以下の通りである。トヨタにとって最も早期に多様化した市場は日本市場であり、日本工場が生産性、品質のみならず製品多様性にも優れた生産システムを構築する舞台となった。北米市場においても多様な製品が求められたが、日本工場が同市場に向け少量多品種な製品を供給することで、北米工場は量産品に特化できた。つまり北米工場は製品多様性を除いた生産性と品質のみを追求すればよかった。早急な現地生産を求められていたトヨタにとって、このグローバル分業は効果的だったと考えられる。 このグローバル分業はその後のアジア市場への展開においても実施された。たしかに現地工場で量産に特化したことは、アジア市場で重要となる低コスト化に寄与している。しかしそれでもなおトヨタは同市場をめぐる競争でVW、現代自動車に苦戦していた。 このように日本市場、北米市場で高い競争力を発揮する生産システムであっても、最重要市場となりつつあるアジア市場では十分な競争力を発揮できていない。市場と競争のこうした状況がトヨタに対し、生産性(コスト)、品質、製品多様性の全てに優れた生産システムから生産性(コスト)を特に重視した生産システムへの移行を迫っているといえる。
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