この一年間において、報告者は平成22年度の「研究実施計画」に沿って研究体制の整備や資料の収集に重点を置きながら、以前から行ってきた第一次世界大戦期の日露関係の研究を発展させる形で、両国間の実業的なネットワークの輪郭を再現しようとした。この過程で、2010年12月および2011年3月に、2回にわたり東京研究旅行を行い、三井文庫、大倉財閥資料室(東京経済大学)、三菱経済研究所や国会図書館などで資料の閲覧・複写することができた。さらに、2011年1月、モスクワを訪問し、ロシア帝国外交史料館(AVPRI)、ロシア国立軍事史資料館(RGVIA)やロシア国立図書館(RGB)で資料収集を行った。その結果、ウラジオストックを拠点としたスイス出身の外商ブリネルと三井物産との実業的な繋がり、ドイツ人の「クンスト&アリベルス商会」、スコットランド系商人デンビーと三菱財閥との経済的な提携、そして第一次世界大戦期における大倉財閥の対露貿易の実情に関わる貴重な資料を発掘した。研究成果の一部は『第一次世界大戦期における日露軍事協力の背景-三井物産の対露貿易戦略-』という形で『北東アジア研究』第21号(2011年3月)に掲載されている(裏面参照)。拙稿の結論は、ロシア市場への進出において三井物産が成功したのは外商ブリネルのおかげであり、ブリネルと日本の経済界との間に「帝国主義的な摩擦」が全くみられなかったというところにある。要するに、上に上げた外商たちは、日露間において重要な媒介物の役割を果たしており、日本の経済界の対露進出を容易にしたのである。ロシアを拠点とした外国資本と日本の実業界との間にできた人的な関係は、日露両国の政治経済の在り方に光を与えるものとして、発展性のある研究テーマのひとつとして挙げられる。
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