本年度の研究実績は平成23年度東北大学東北アジア研究センター主催の「途絶する交通・孤立する地域-人と地域の対応」をテーマとした公開講演会であった。本研究の成果のの部として「橋が架かったシマの再離島化-沖縄県今帰仁村古宇利の事例-」という題目で講演を行なった。 (1)具体的内容としては、離島苦の克服策として実現した架橋が、シマ社会が離島でなくなったとたんに引き受けなければならなくなった諸問題(シマの出入り口であり情報の結節点であった港の消失による時間の多層化化・拡散化、島外から恒常的に不特定多数の人が出入り可能となることで生じた祭祀の実施困難)が生じたことについて講演を行った。本研究が掲げていた目的は「地域社会において受け継がれてきた伝統的祭祀や儀礼が、過疎化や高齢化によって継承困難に陥るという現象を分析対象とし、これまでそこに住み社会を再生産してきた人びとにどのような問題として経験されているのかを明らかにする」ことであった。過疎化・高齢化へのひとつの処方箋として試みられた架橋であったが、とくに高齢者にとっての実態として明らかになったのは架橋が副次的にもたらした高齢者の異動困難(バスとフェリーの運行停止による)福祉施設の外部委託化(中学校の統廃合による消失、診療所の消失)であった。本研究の課題を明らかにするうえでの(2)平成23年度成果の意義は、テーマとしてきた祭祀の実施困難を架橋というシマの大きな社会変動期から眺めてみたことであった。シマ社会では祭祀を実施する際に様々な禁忌(拝所・御嶽等の聖地への立入禁止、年に2度のシマを出歩いてはいけない時間等)が存在してきた。架橋によって不特定多数の観光客が恒常的に立入可能となることでこの禁忌の遵守は困難化し、祭祀の継承困難に拍車をかけた。本研究の(3)重要性は離島の過疎化・高齢化の克服が、振興策と捉えられることの多い交通アクセスの向上や観光人口の増加とはかならずしもイコールの関係にないことに光をあてた点にある。
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