研究概要 |
平成22年度から23年度にかけて行われる本研究課題の二年目(最終年)を迎えた本年度は、当初の計画に従い、ハンセン病療養所と近隣地域の関係性を歴史的に検証するための実態調査に着手した.具体的には、昨年度に引き続き現在は都市部に位置している東京都東村山市の「多磨全生園」および現在も離島部に位置している岡山県瀬戸内市の「長島愛生園」の両療養所を訪問し、各々のアーカイブや書庫での資料調査、それらの施設で生活する入所者にインタビュー調査を実施した.くわえて本年度は、昨年度と同様に近隣地域の市町村立の各種:図書館等を訪問し、周辺情報について把握するとともに、「栗生楽泉園」の存在する群馬県草津町にも射程を広げ、資料調査を実施した。 以上、前年度と本年度の作業およびその総合的把握を通じて、本研究はハンセン病療養所各園と近隣地域が取り交わしてきた関係性について検討した。そこからは、ハンセン病療養所入所者・近隣地域が経済的利害を中心的なイシューとして相互に働きかける中で、一般に流通するものとは異なる疾病観や実利的な関係性を構築してきたことが明らかになった。また、ハンセン病問題を巡っては近隣地域の住民に加えて、戦前・戦後を通じて多様な人々が療養所に赴き,入所者との接点を築き上げてきた事実を発見した。そうした重層的なアクターと入所者の関わりの中で、「社会」特に近隣地域における療養所入所者と他者の共在する「(居)場所」が作り上げられてきた歴史的経緯について気がついたことも大きな成果である。
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