学習障害(LD)の中核と考えられている発達性読み書き障害は、日本においても決して頻度の低くない障害であることが明らかになってきている。近年、日本語の仮名文字のような、文字と音の対応関係が規則的な言語においては、音読の正確性は比較的獲得されやすいが、音読速度には問題が長く残存することが指摘されている。この音読速度に、発達性読み書き障害児の抱える低次の視覚的要因が影響している可能性が考えられており、さらにこの側面への対策として、有色透明フィルムを用いる方法の有用性が指摘されている。しかし、これまでの有色透明フィルムに関する先行研究では、音読速度に影響を与えると想定される複数の要因が、十分統制されていない問題点があり、有色透明フィルムが真に有用であるかどうかの検討が十分に行えていない。そこで本研究では、日本語話者の発達性読み書き障害児を対象に、実験条件を統制した上で音読課題を実施し、有色透明フィルム使用が音読速度に与える影響、その有用性、また有用であった場合の要因について検討し、発達性読み書き障害児に対する支援方法に関する知見を得ることを目的とする。平成22年度は、日本語話者の発達性読み書き障害児に音読課題を実施し、有色透明フィルムの色の要因が音読速度に与える影響を検討した。対象は発達性読み書き障害児21名と典型発達児18名である。刺激はひらがなの単語と非語、カタカナの単語と非語および文章である。音読課題はフィルム不使用条件、無色透明フィルム使用条件および有色透明フィルム使用条件の3条件で実施し、音読所要時間を計測した。本研究では、照度、対象児と刺激間の距離、刺激の単語属性、教示方法、順序効果およびプラシーボ効果に関して実験条件を統制した。その結果、発達性読み書き障害児群と典型発達児群の音読所要時間は、5種類の音読課題のいずれにおいても3条件間で有意差は認められなかった。有色透明フィルム使用による紙面の色の変化は、音読速度に影響を与えないのではないかと考えられた。
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