二年目の前半は主に発展途上国の社会保障の持続性を分析するための世代重複型動学的一般均衡モデルの構築とモデルを走らせるソフトウェアー操作に関する学習を継続し、後半は高齢化が急速にすすむ中国を対象に分析を行った。従来のマクロ一般均衡モデルは代表的家計を用いており、人口減少は生産関数の労働供給の低下から経済に影響をあたえるものの、人口減少が財政の悪化から税率の上昇を招き、家計の消費と貯蓄の意思決定を通じて長期的に財政やマクロ経済の及ぼす影響を分析するにはあまり適切ではなかった。しかし、本研究では経済の中に異なる一世代10年を基礎にして6世代を導入し、各世代は世代ごとに、また、年齢ごとに意思決定を行うよう設計されている。 中国を対象として、年金給付率の引下げと納付率の引上げ、支給開始年齢の引上げのシナリオをモデルで検証した。短期では給付率の引下げが有効であるものの、長期では支給開始年齢の引上げが成長への負の影響が最も少ないことが判った。この結果は、先進国を対象とした研究の結果と整合的である。 年金制度に関する研究は多いものの、途上国を対象とした年金制度の分析は非常に少ない。世代重複型動学的一般均衡モデルを使った分析は更に少ない。しかし、日本や先進国の例を待つまでもなく、経済が右肩上がりで高齢化や人口の減少が緩慢に時代に設計された制度は必ず持続性の支障が生ずる。特に途上国の年金は公務員年金を拡充したしており、比較的財政負担の高いものが多い。現在は労働者に対する年金制度のカバー率が低いことから、財政負担は小さいものの、今後、高齢化が進み、且つ、カバー率が上昇すると財政負担は著しく増加する可能性が危惧される。その意味でも、途上国、一つ一つについて年金制度の検証を行い危険を周知することが、先進国が犯した過ちを避ける唯一の道と信じる。
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